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台湾の馬祖列島で繰り広げられるアートの祭典を現地レポート!
2021年、台湾の馬祖列島で初開催された国際芸術祭「馬祖国際芸術島(馬祖ビエンナーレ)」は、コロナ禍での延期を経て2022年にスタート。この芸術祭は2年に1度、異なる展示をしています。今回のテーマは「生紅過夏」。馬祖の特産である老酒を醸造する際の餅米と紅麹を井戸水で発酵させた時に出る紅桃色のことを「生紅」、それを大切に管理して厳しい夏を乗り切ることを「過夏」と表します。この芸術祭が老酒のように時間をかけて熟成し、生命力に溢れる祭典となることが期待されています。
りとふる編集部は2023年9月23日から11月12日まで開催された第2回に参加し、その魅力を満喫してきました。今回の記事は、アート作品や馬祖列島の魅力に焦点を当ててご紹介します。
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文章・写真:りとふる編集部
馬祖列島とは?
馬祖(ばそ)列島は南竿(なんがん)、北竿(べいがん)、東莒(とうきょ)、西莒(せいきょ)、東引(とういん)と複数の島からなる台湾の国境離島で、台湾本土よりも中国が近いため晴れた日には対岸に中国を眺めることができます。実際に対岸沿いのホテルに宿泊したのですが、昼は中国の風力発電施設が見え、夜は中国の街灯りやタンカー船などの灯りが見えました。
馬祖列島は、国境離島という特徴からかつて台湾政府の軍事拠点となっていた歴史があります。今回のアート作品の中にも軍事拠点を活かした作品や、平和・自由をテーマにした作品が数多く展示されていました。
現地のガイドの方に伺うと、日本人観光客は少ないものの台湾本土からは多くの観光客が訪れる人気の観光地となっています。
馬祖列島への行き方
馬祖列島の中心の島である南竿と北竿には、台湾の国内線飛行機で台北から約1時間で行くことができます。他にも、南竿と東引へは台北郊外にある港町の基隆から船で渡ることも可能です。また、南竿から北竿へは船で約15分、東莒と西莒へは船で約1時間とアクセスしやすいです。
今回、私たちは台北の松山空港から国内線で南竿へ行き、南岸から北竿へ船で渡り、北竿の空港から台北に戻るというルートで巡りました。
東引へは南竿からの距離があるため、今回の短い日程では周遊が難しくて残念ながら訪れることはできませんでしたが、東引には魅力的な観光スポットが多くあります。次回は東引や東莒、西莒へも周遊ができればと思います。
国際芸術祭・馬祖国際芸術島
この芸術祭では南竿、北竿、東莒、西莒、東引にアーティストによる様々なアートが展示され、過疎化・高齢化が進む馬祖をアートで盛り上げようというフェスティバルです。期間中はアート展示以外にも音楽、演劇などの様々なイベントが開催されています。今回はりとふる編集部が実際に見学した、南竿と北竿のアート展示をご紹介します。
南竿のアート展示
まず、最初に訪れたのは、南竿空港からほど近い26拠点です。かつて使用されていた軍事用トンネルなどを改装して2023年9月にプレオープンしたばかりの施設で、今回の芸術祭のメイン会場の1つです。トンネルの中には軍事用の観測場所や銃を撃つための部屋などがあり、それぞれの部屋で異なるアート作品が展示されています。
トンネル内の1番奥の広い部屋には、『放置された巣(棄巢)』という作品が展示され、使われなくなった部屋を巣に見立て、生き物が置き去りにした後を想像させる作品です。
かつて軍事用の観測場所だったこちらの部屋からは、海の中から敵が攻めてこないかレーダーを用いて監視していました。海の中のレーダーの模様を窓ガラスへ転写し、それを陶器の食器で表現した作品です。食器の表面にはレーダーの細かな模様が施されています。
かつて軍の訓練所であった山隴排練場の中には、馬祖の伝統工芸である切り絵の漢字が所狭しと吊るされて幻想的な空間を演出しています。漢字の中には馬祖のシンボルの花が描かれているものもあり、細部までこだわりを感じる作品です。
馬祖の歴史や文化について展示されている馬祖民俗文物館では、京都出身のアーティストの作品があります。香川県男木島と馬祖で子どもたちとワークショップが行われ、それぞれ1つ1つの雲には島の子どもたちが書いたメッセージが付いています。男木島と馬祖の子どもたちをつなぐ作品です。
南竿の珠螺村には小さな防空壕が残っています。防空壕の中には軍郵便の歴史を感じることができるアート作品の展示があります。案内版がでていないと絶対にたどり着けないような場所にある古びた防空壕なのですが、外からの景観から想像できないほど綺麗な空間になっていました。
南竿の南西部にある津沙集落は、ノスタルジックな雰囲気とおしゃれなカフェなどが楽しめると観光客に人気です。海を見渡せる集落の上には、ガラス瓶が並べられた『開ける(打開)』というアート作品が展示されています。ガラスの透明感と水平線と生い茂る植物が融合した美しい景色を眺められます。
馬祖の名前の由来とされる航海や漁業の守護神 媽祖(まそ)巨神像の麓のビーチには、アンカーチェーン、椅子、時計など古い軍事船の部品を使ったアート作品が展示されています。このビーチはかつて軍事用地だったため島民たちは立ち入り禁止でしたが、この作品は、海から陸へ、陸から海へ入る進化を遂げた鯨の姿を表現しています。
南竿から馬祖の島々へ周遊の起点となる福澳港には、台湾を拠点に活動する沖縄出身のアーティストの作品が展示されています。鳩と銃の形が黄色い風船で作られ、平和と戦争が常に隣り合わせであるということと空気を入れ続けなければしぼんでしまう風船のように儚い平和を表現しています。
北竿のアート展示
北竿に到着して最初に訪れた坂里ビーチ(坂里沙灘)の南側にある軍事拠点跡地には、2つの作品が展示されています。1つはトンネル内の大部屋を改装したシアターで、暗い部屋にスクリーンの映像と複数のテレビとラジオから流れてくる音の演出があります。残念ながら英語字幕のみのため日本語字幕はありませんが、戦争、軍隊、自由、平和をテーマにした映像が流れています。
もう1つは、同じ軍事拠点跡地内の複数の小部屋の窓の上に、実際に窓から見える景色と同じ絵が描かれています。この絵はアーティストが描いたものではなく、窓から真っ暗な夜でも方向や場所が分かるようにと窓の外の景色をかつての軍の隊員らによって描かれました。
その中の1つの窓には、人で賑わう平和な坂里ビーチの様子が描かれています。これからの明るい未来を創造するかのような作品です。
最後に訪れたのは、北竿の北部にある橋仔集落という漁村です。こちらの漁村には日本鹿が生息する大坵島への渡し舟が出る桟橋もあり、観光客が多く訪れる集落です。
かつて漁業用の貯蔵庫として利用していた建物を改修したアート作品が印象的です。建物の1階には魚の貯蔵スペースを利用して歴史的な海上信号灯を表現しています。階段を上がった2階には天井から差し込む自然光で照らされたアート作品が展示されています。360度回りながら見ることができ、見る角度や時間によって異なった雰囲気を楽しめるのも実際に訪れた現地でしか楽しめない魅力です。
最後に
いかがでしたでしょうか?今回、りとふる編集部が実際に見学で訪れた施設の中で、南竿の26拠点には唯一日本語が話せるガイドがいました。その方によると、馬祖芸術島は瀬戸内国際芸術祭のように今後広く知られることを目指しているそうです。日本国内の島々の取り組みが海外の島々に与える影響はとても大きいと言えるでしょう。
また、この記事が日本国内の島々のプロジェクトに何かインスピレーションを提供することができるのであればうれしいです。
今回の第2回開催期間中は延べ32,000人以上が馬祖の島々を訪れ、70点の作品を鑑賞しました。今後、10点以上の作品は常設展示となるそうです。ぜひ実際に馬祖を訪れてみてくださいね。