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ICTで離島を救う!「医療画像のクラウド化」で医療革命を!

2019.07.31

ICTで離島を救う!「医療画像のクラウド化」で医療革命を!

離島が抱える医療の課題、医療のICT化がもたらす僻地医療の未来とは?AIやデジタル化が進む今、医療分野でのICT導入はまだほど遠い。そんな中、MediTech株式会社が開発したDrs’ HotLineは、患者の診療画像のクラウド化に世界で初めて成功。医療分野に革新をもたらそうとしている。 社長であり、外科医でもある檜山和寛氏にお話を伺いました。

プロフィール

檜山和寛(ひやまかずひろ)。東京都出身。茨城の病院にて研修後、米国医師免許を取得し、米国へ留学。2018年3月にMediTech株式会社を設立。2018年12月に世界初となる患者情報のクラウド型アプリ「Drs’ HotLine」をリリース。

MediTech株式会社の起業に至った経緯

医師のキャリアプランというと、大学に残って既定路線に乗るのが標準的なのですが、そこに疑問を持ち始めてアメリカに留学しようと思いました。アメリカの医療現場で実際に働いてみて日本の医療を立ち返った時に、解決すべき問題点がたくさんあると実感しました。政治や大学という大きな組織であればそこに目を向けられると思ったのですが、大学で権限を発揮したり政治活動をしたりして解決に取り組むには年数もかかりますし、早い動きができません。そこで、何かビジネスサイドでそれを解決できる製品を開発して、医療のニーズを解決することができないかと思ったのがきっかけでした。

今ICTが叫ばれていますが、医療分野はほとんど進んでいなくて…。実際にモバイルツールを活用すればもっと医療従事者、患者の双方にとってメリットがあると思い、アプリの開発に至りました。

米国留学を通じて感じたこと

日本にて米国医師免許を取得後、アメリカ(ミシガン州・デトロイトとオハイオ州・クリーブランド)の病院で研修を行いました。そこで様々な面で日本の医療との違いを感じました。例えば、電子カルテ。日本は電子カルテの会社が20~30社とたくさんあります。統一化されていないので、データの共有ができていません。一方アメリカではその辺りを国主導でしているので大きな電子カルテ会社は3社ほどしかなく、病院間のデータの共有がかなり容易にできている現状があります。アメリカ国内での病院のすみ分け、例えば「手術をするならこの病院」というのができていて、病院間の連携も増えており、なおかつそれがウェブ上でできているので非常に合理的だと感じました。それを日本に全く同じようにというわけにはいきませんが、何とか形を変えて受け入れてもらえるような形でやっていけないかと考えました。

離島が抱える医療の課題とは?

画像提供:PIXTA

離島が抱える医療の課題としては、医師不足、少子高齢化、都市部と離島との医療格差など様々です。これらの課題を考える際に、医師側、患者側、そして行政側の3点から考える必要があると思います。まず行政側の視点から考えると、離島は日本の海域を決めるという政治的な意味からしても、減らしたり費やしたりすることはできないというのは間違いなく前提としてあると思います。聞くところによると離島から患者さんを搬送する際にドクターヘリを1回飛ばすのに100万円程予算がかかり、かなり大掛かりなうえコストもかかってしまいます。財政面からしても患者を正しく診断して、搬送が本当に必要な人を正しく搬送する必要があります。

「離島で解決できることは離島で解決する」というのが一番だと思いますが、島に医師が1人しかいないということもあり得ますので、必ずしも正しい診断に至らないことがあります。ましてやこういう時代なので、診断内容が問題視されることもあります。医師側の視点から考えると、1人しかいないところで診療するとなると、診断内容に自信がないこともあると思います。そういう時に離島間の医師同士や、離島と本島の医師同士で相談し合える仕組みというのが絶対的に必要だと感じます。

そして、患者側の視点から考えると、離島に住むとなった際に病気にかかった場合、その島の医師にかかるわけなので、専門家にすぐ相談できる仕組みがないと、やはり住んでいくうえでも不安に感じると思います。医療はインフラの一つなので、そこは重要なところです。

離島に医師が少ない理由

実際に医師として働いていて大きな病院で働くことの魅力として感じるのは、他にも医師がたくさんいる中で気軽に専門外のことを相談でき、逆に自分の専門領域の相談を受けることができることです。マンパワーが多いところの方が当然ながら働きやすいですし、訴訟のリスクも少ないです。また、ワーキングタイム(医師の拘束時間)もかなり恵まれているというのもあります。離島で働くと自分一人しかいないという状況が想定されるので、結局365日患者さんを診なければいけないという可能性も出てきます。責任という観点からも幅広いところを見ないといけないので、かなりハードルは高いと思います。

檜山さんが医療過疎地へ赴く想い

私は現在、茨城や高知、沖縄など様々な病院を行き来しています。高知県でもかなり医療過疎が深刻化しています。

何でも診るうえ人が少ないところで働くというマインドを持っている若手医師は、残念ながらほとんどいません。実際に四国も医師がかなり高齢化しています。もっと若い医師にも診てもらえるようになってほしいという想いはあります。昔、恩師から「専門+αが大事で、専門以外も一つでいいから診ようとする精神が大事だ」ということを教わっていたので、過疎地で幅広い病状を診るというのが染みついているというのは根底にあると思います。

医療現場のクラウド化の現状

離島はじめ医療過疎地が抱える課題の対応策の一つとして、「医療現場のクラウド化」に着目しました。実際に現場で働く医師として、日本の医療のICT化は正直ゼロに近いのが現状です。例えば電子カルテの場合だと、クラウド型の電子カルテが一部で出始めている一方で、ほぼすべての病院が院内に大きなサーバー室を用意していて、そこに情報をストックしているという状況です。何が困るかというと、人口1億人の国に電子カルテの会社がたくさんあるので、個々の病院で扱っている電子カルテの形式がバラバラということです。製品としてバラバラなものを繋ぐ役割を果たすものが必要で、とはいえ今から国が主導で現状20~30社ほどある電子カルテの会社を絞っていくのは難しいと思います。なので、個々の病院からの医療情報を中央のクラウドセンターのようなところに保管して、どこからでも引っ張って来られるようにしたら情報の共有化が進むのではないかと考えました。それを利用するとこによって離島や医療過疎地の情報が中央でも可視化できますし、患者側としても医療機関側としてもかなり役立つことだと思っています。

「Drs’HotLine」アプリのリリース

2018年12月に、世界初のクラウドでの患者の診療用画像の共有が可能となるアプリ、「Drs’ HotLine」をリリースしました。医療機関レベルで実験を重ねる中で複雑なシステムを改良して簡素化していったため実際に製品として仕上がったのは、2019年6月です。ITに疎い人にでも使いやすいように、メールが送れるくらいの方であれば誰でも使えるようなシンプルな作りにしました。実験を重ねる中でご好評をいただけて、ようやく少しずつ導入に繋がってきているところです。

ただ、そもそも医療クラウドがどういうものかというのを把握しているところも少なく、クラウドという概念やデータがそこに保管されるという仕組みがわかっていないところが多かったです。また、実際に現場で働いている医師側のニーズと県の職員、病院の事務方の意思が違うというのが現状で、現場の声とアプリ導入によるメリットを感じていただかないと導入はなかなか進まないと感じています。

いくつかの県には県が主導で作ったシステムがあるのですが、例えばVPNを使って数GB程度ある画像情報を丸ごと送るシステムでは、数十分から場合によっては1時間程度とかなり時間がかかってしまい、緊急時には適さないものになっています。今まではこのようなシステムに対して疑問を抱く人がおらず、そこが一番の問題点でした。喫緊の課題と感じているのは沖縄をはじめ離島だと思うので、そういうところから変えていかないといけないと思いました。

マスキング

患者さんの情報を扱うということだけあって個人情報の保護がマストでした。患者情報を自動消去できるようにしたり、患者を匿名化したりというのは徹底化させる必要があり、そこに細心の注意を払いました。

 

「Drs’ HotLine」アプリ導入とその反響

現在、自治体や団体ベースで動き始めていて、個々の病院が近隣の診療所と繋がるように動いているところです。広くご利用いただきたいという思いから月額のコストをかなり削っているということもあって個々の医療機関に営業するとなるとコストパフォーマンスが悪いというのと、1つの医療機関にアプローチするよりも病院群、診療所群にアプローチする方が社会的インパクトが大きく、そこに住む地域の方にとっても安心できる医療体制を作ることができると思っています。

沖縄・長崎・鹿児島などの離島では、県内の病院をまとめている行政組織があります。例えば、沖縄の離島診療所は沖縄県内の親病院が定められており、そこにまず紹介するシステムになっています。行政を通じて僻地医療の改善を図ってはいるのですが、問題点としては県をまたいだ場合に現行のシステムだと不具合が生じてしまうことです。例えば、奄美だと鹿児島よりも沖縄の方が近いので沖縄に情報を送った方が早いのですが、県をまたいだシステムを作るとデータのやり取りが上手くいかないみたいでして…。つい最近、問い合わせをいただいた自治体でも市をまたいで何かを作るというのが市町村としてできないみたいで、そういった点でクラウドは容易にできるというのが一番の利点だと思っています。

特に沖縄は、離島医療をなんとか改善していきたいという意思が強いみたいで、石垣や宮古周辺の医師が積極的に動いてくれています。離島と本土を繋いでいる親病院の医師は常にそういう課題を認識していると思います。今後少しずつ導入が進めばと思っています。

離島医療の解決策とは?

多くの島から成り災害も多い国日本で、離島医療が抱える課題は看過できません。マンパワーを増やせるのがベターですが、すぐに専門家に相談できるようなシステムがあれば若い医師でも離島に行きやすくなると思います。医局以外にそんな団体を作り、そこを支援することも将来的にしていくべきと考えています。ある程度1~2年離島医療を経験してみたいという若手医師も結構いると思います。

「Drs’ HotLine」を開発したのは、「もっと革新的に日本の医療改革をやっていきたい」という想いからでした。遠隔診療やAIを使ったロボテック診断にもすごく興味があるのですが、現場はそんなところまで追いついておらず、ITを使った医療を施しているところはほとんどありません。

最近、テレビ通話を用いた遠隔医療というのを耳にします。ようやく今年から診療報酬が認められましたが、まだ3分の1です。診療所に通院した方が、診療所にとっては収益が高いのです。現在の最大の欠点としては、医療機関側は患者さんが来ることで収益を得ているという発想に欠けていることです。それが原因でなかなか進まなかったのですが、ビジネスサイドで便利なものを作っていけば患者さんも医療機関側も使っていくはずですし、医療をより良い方向に持っていけると思っています。

クラウド型のサービスを使って電子カルテのクラウド化を進めて患者さんの情報を共有できれば、遠隔診療や訪問診療がもっと進みます。まずはITへの恐怖感を取るという意味合いも含めて製品を開発したというのもあります。

MediTechが今後目指すこと

イメージ画像

聞くところによると、例えば沖縄県ではCTやMRIは宮古や石垣のような大きいところでないと撮れませんが、人口が少ない離島の診療所でもレントゲンは撮れるようです。私は外科医ですが、例えば患者さんが骨折しているかを判断する際にレントゲンを用いても判断が難しいことが多々あります。離島の診療所の先生方もそういうのに日々悩みながら診断しているのではないかと思います。レントゲンを共有できる仕組みがあるだけでもだいぶストレスは減ると思います。

実は、日本は世界一のCT保有国で、人口当たりのCT台数が圧倒的に多いです。クリニックでもCTを保有しているところが結構あるので、そういうクリニックと中核病院をシステムで繋ぐというのもかなり意味があることだと思っています。

様々な分野でAIやデジタル化が進む中、個人情報の保護等の理由で医療分野でのICT化は思うように進んでいませんでした。カルテの電子化は進んできてはいますが、肝心なそれを一元化したり共有できたりするシステムがありませんでした。診療画像のクラウド化は、全国の患者と医療機関を「繋ぐ」ことができます。これまで医師は目の前の患者しか診ることができませんでしたが、今後は県や島を超えての診療が可能となり、医師と患者双方にとって最適な医療が提供できるようになると信じています。

まずは日本の離島や医療過疎地から、そして将来的には海外ともクラウドで繋がり、都市部と地方の医療格差是正のための一歩となることを願っています。

 

取材協力:株式会社MediTech

東京都千代田区大手町1-7-2東京サンケイビル27階

03-3242-3321

8:30~17:30

http://meditech-corp.com/